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宇都宮地方裁判所 平成元年(行ウ)8号 判決 1993年2月24日

栃木県大田原市若草一丁目一五三六番地

原告

櫻丘三郎平

右訴訟代理人弁護士

福田哲夫

栃木県大田原市紫塚一丁目五番五四号

被告

大田原税務署長 木村章徳

右指定代理人

池本壽美子

神谷宏行

谷古宇弘次

多田賢一

川崎利夫

国井昭男

有賀捷一

星京一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対して、昭和六二年七月三日付でした、昭和五九年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。

第二事案の概要

一  本件の経過等

1  原告の担保提供

原告は、昭和五六年二月二四日、有限会社前田酒販(以下「前田酒販」という。)の渡邊酒販株式会社に対する借入金債務一億九四〇〇万円を担保するため、原告所有の左記土地に抵当権を設定した(甲二ないし四号証)。

(一) 那須部西那須野町大字石林字精進揚道下四六一番

山林 一万二六九七平方メートル

(二) 同所四六七番

山林 一二六四平方メートル

2  本件代物弁済

昭和五九年六月二八日、宇都宮地方裁判所において、前田酒販の右債務の履行に代えて、原告が右1記載の土地を渡邊酒販株式会社に給付するとの和解が成立し、原告は、これを履行した(争いなし)。

3  原告の確定申告

原告は、本件代物弁済は、所得税法六四条二項の規定(保証債務の履行等に伴う所得計算の特例、以下「本件特例」という。)の適用を受けるものであるとして、昭和五九年分の所得税について、法定申告期限までに、分離課税の長期譲渡所得の金額を〇円、納付すべき税額を〇円とする確定申告をした(争いなし)。

4  本件処分

被告は、本件代物弁済には、本件特例の適用はないとして、原告に対し、昭和六二年七月三日付で、別紙「本件課税処分の経緯」更正・賦課決定欄記載のとおり原告の分離長期譲渡所得金額及びこれに対する税額を更正する旨の処分並びに過少申告加算税の賦課決定をした(争いなし)。

5  本件更正処分の根拠

本件代物弁済に本件特例の適用がないとした場合、本件土地の譲渡収入金額は本件代物弁済の際の本件土地の価額である二四一一万円、取得費は譲渡収入金額に一〇〇分の五を乗じて算出した金額である一二〇万五五〇〇円、特別控除額は一〇〇万円であるから、分離長期譲渡所得金額は二一九〇万四五〇〇円となる(原告において明らかに争わない)。

二  争点

本件の争点は、原告が本件代物弁済について本件特例の適用を受けられるかどうかである。

1  原告の主張

(一) 前田酒販の営業及び資産の状況

前田酒販は、昭和五七年一〇月二〇日に不渡手形を発生させたことから銀行取引停止処分を受け、その後は高利の個人金融業者に依存して営業を続けていたため、営業成績の不振に加え、金利負担が急激に増加し、過大な負債を抱え、昭和五九年六月当時は、支払不能の状態であった。

原告が求償権を取得した前後の前田酒販の財務内容は、次の(1)ないし(4)のとおりであって、債務超過の状態が相当期間継続しており、原告が求償権を行使することは不能の状態にあった。なお、この財務内容は、前田酒販の財務諸表に記載された資産には不良資産が含まれており、簿外の債務もあるため、これらを修正して計算したものである。また、前田酒販の財務諸表は、多額の損失を過少にすべく粉飾したものであり、資産の過大計上はなされていても過少計上はないと考え、簿外資産はないものとして計算した。

(1) 昭和五七年五月期(昭和五六年六月一日から昭和五七年五月三一日までの事業年度を言う。他の事業年度の表示もこれに倣う。)

資産 七億四四三二万三四七七円

負債 一六億四〇七七万八五二一円

純資産 △八億九六四五万五〇四四円

(2) 昭和五八年五月期

資産 五億〇一〇四万〇〇七六円

負債 一四億一一四九万四二六四円

純資産 △九億一〇四五万四一八八円

(3) 昭和五九年五月期

資産 不明

負債 不明

純資産 △八億九九六〇万三一四二円

(4) 昭和六〇年五月期

資産 三億八九六一万八九一〇円

負債 一二億二二一七万四五三五円

純資産 △八億三二五五万五六二五円

(△は、マイナスの表示である。)

(二) 求償権の放棄

原告は、昭和五九年六月二八日、前田酒販及び本件債務の連帯保証人であった前田知男、前田久子、前田福との間で、債権債務に関する協議書を作成し、本件代物弁済の履行に伴う求償権を放棄した。

(三) 昭和五七年分の申告と信義誠実の原則

原告は、昭和五七年にも、前田酒販の債務の保証人として、不動産を処分して債務を履行し、同年分の確定申告の際にも、本件特例の適用を申請したが、被告はこれを認めている。そして、昭和五九年当時の前田酒販の資産及び経営の状態は昭和五七年当時と比較して改善されたことはなく、原告は昭和五九年分の確定申告においても本件特例の適用を受けられると考えて確定申告をしたものである。本件更正処分は、原告の右期待を合理的理由もなく裏切るものであり、課税権限の適正な行使とは言えず、課税法律関係における信義誠実の原則に反する違法な処分である。

2  被告の主張

(一) 前田酒販の経営及び資産の状況

前田酒販は、昭和五七年二月以降、酒類小売のディスカウント店を次々と開店させ、昭和六〇年九月までに一六店舗、最終的には一八店舗に拡大し、多額の設備投資、資金投入をするなど、極めて広範囲にわたり活発な事業活動を行った。さらに、前田酒販は、原告が求償権を放棄したとする前後において、後記(二)の原告に対する債務弁済のほか、一部の債権者に対して債務を弁済し、また、運転資金の担保とするための土地を購入したり、新たな当座預金口座を開設し、これを支払場所として手形及び小切手を振出し、これを支払手段とするなどの活動を行った。

以上のような、本件代物弁済がされた昭和五九年六月前後の前田酒販の借入金の返済の状況、資産の取得の状況、金融機関との取引の状況、更には一部債権者への弁済状況等をもとに総合的に検討すると、前田酒販は、当時活発な事業活動を行っていたということができ、原告が前田酒販に対する求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実になったということはできず、本件代物弁済について本件特例を適用することはできない。

(二) 求償権の放棄

本件代物弁済の直後である昭和五九年八月八日から昭和六〇年一一月一一日までの間、前後一七回にわたり、前田酒販から小切手により合計四一三万円が原告の妻櫻岡芳子又は原告の長男櫻岡勝名義の貯金口座に入金され、あるいは右小切手金が櫻岡勝の大田原市農業協同組合に対する借入金の弁済に充てられている。右金員は、実質上、原告の前田酒販に対する求償権の一部として支払を受けたものと見るのが自然であり、原告が求償権放棄の意思表示をしたことはなかったか、あったとしても、仮装のものに過ぎない。

(三) 昭和五七年分の申告について

被告が、原告の昭和五七年分の確定申告に対して更正処分をしなかったのは、本件特例の適用を認めたものではなく、単に更正処分をしなかったに過ぎない。また、昭和五七年分の申告との比較において、本件係争年分について本件特例の適否を論じることもできない。

第三争点に対する判断

一  所得税法六四条二項の解釈について

所得税法六四条二項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額については、所得の金額の計算上なかったものとみなす旨を定めているが、右にいう「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、求償権の相手方たる債務者について、破産宣告、和議開始決定を受けるか、又は、失踪、事業閉鎖等の事実が発生したり、債務超過の状態が相当期間継続して金融機関や大口債権者の協力を得られないため事業運営が衰微し再建の見通しもないこと、その他これらに準ずる事情があるため求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実になった場合をいい、これは、求償の相手方たる債務者の資産や営業の状況、他の債権者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観的に判断すべきものである。そして、求償権を行使すれば支払を受けられるのにこれを行使せずに求償権を放棄しその結果求償権を行使できなくなったとしても、この場合には、所得税法六四条二項の適用はないと解するのが相当である。

また、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨であり、求償権行使の可否は、譲渡所得の成否に本来無関係であるところ、所得税法六四条二項は、求償不能という異例の事態について租税政策上の見地から特に課税上の救済を図った例外的規定であると解されるから、同条項の適用を基礎付ける事実の主張立証責任は納税者にあるというべきである。

二  前田酒販の資産及び経営状態について

1  証拠(甲六ないし三〇号証、乙二ないし九号証、一〇、一一号証の各1ないし3、一二号証、一三ないし一八号証の各1ないし3、一九号証の1ないし4、二〇号証の1、2、二二号証の1、2、二三号証、二四号証の1、2、二五、二六号証、証人前田知男、同野村隆、同神谷宏行、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 前田酒販は、昭和四四年一一月二四日に設立され、酒類販売業免許を取得して、当初は酒類及び食料品の小売を主たる業務としていたが、昭和四六年一〇月、酒類の販売を小売に限るとの免許条件が解除になってからは、酒類の卸販売にも進出するようになった。なお、前田酒販は、従前、青色申告の承認を得ていたが、昭和五二、三年ころ、これを取消されており、また、昭和五六年五月期から昭和五八年五月期まで法人税の確定申告書を提出しなかった。

(二) 前田酒販は、昭和五六年九月、不渡手形を発生させたが、一回のみであったため、そのときは銀行取引停止処分は免れた。しかし、昭和五七年一〇月二〇日に、不渡手形を発生させた際には、大田原手形交換所から銀行取引停止処分を受け、その後、二年を経過した昭和五九年一一月以降は、手形取引が可能となったが、昭和六一年四月ころ、再度大田原手形交換所から銀行取引停止処分を受け、更に昭和六二年四月には宇都宮手形交換所から、同年七月には鹿沼手形交換所からそれぞれ銀行取引停止処分を受けた。

(三) 前田酒販は、昭和五七年二月ころから、酒類のディスカウント店の経営に進出するようになり、栃木県内を中心に、福島県、東京都、山形県等に、リカーショップ日本一の名称で系列店を次々と拡大していき、昭和六〇年九月ころには、直営店とフランチャイズ店とを合わせて一六店舗を開設し、系列店舗数は最大一八店舗に達した。

(四) 前田酒販は、昭和五九年八月から昭和六〇年一一月までの間、一七回に亙り、小切手によって、合計四一三万円を原告の妻櫻岡芳子又は原告の長男櫻岡勝名義の貯金口座に入金し、あるいは、小切手金をもって櫻岡勝の大田原市農業協同組合に対する証書貸付による借入金の返済を行ったが、これは、実質的には原告に対する支払または原告が負っている債務の返済であった(ただし、これが、被告主張のように本件代物弁済にかかる求償債務を支払ったものか、別口の債務に対する支払であったのかは明らかでない。)。また、前田酒販は、昭和五八年四月九日から平成三年六月一四日までの間に栃木県信用保証協会に対して総額二〇〇九万五一二〇円の求償債務を、昭和五八年四月一日から平成元年三月三一日までの間にコンタツ株式会社に対し総額二五七三万九六一六円(振替等の処理をされたものを除く。)の買掛金債務を、昭和六二年二月一二日から平成元年一〇月一一日までの間に渡邊酒販株式会社に対し総額五四〇万円の買掛金債務をそれぞれ弁済した。

(五) 前田酒販は、昭和五九年九月、宇都宮市本町の宅地二七九・八一平方メートルを買い受けた。もっとも、この土地については、昭和六〇年一〇月に設定された根抵当権に基づき、根抵当権者小川信用金庫から昭和六二年一〇月に競売の申立がされ、昭和六三年一二月、競売により売却されている。

(六) 会計事務所の職員である野村隆は、昭和六一年の三、四月ころから、前田酒販の会計書類等の作成に関与するようになったが、本件処分に対する審査請求において、前田酒販が昭和五九年五月期前後に債務超過にあったことを立証するための資料として提出することを意図して、過去に遡って前田酒販の決算報告書等を作成した。野村隆は、右作業においては、前田酒販の帳簿、原資料等が整理して保管されておらず、内容も不正確であったため、まず債務残高を確認しようと考え、前田酒販の主たる債権者に債権確認書と題する用紙を送付し、昭和六二年五月三一日の時点における前田酒販に対する債権額の回答を求める等して、前田酒販の右時点における債務の額を調査した結果、別表のとおり、一〇名の債権者に対する合計一〇億五三三四万八七一六円(支払手形三億一三二七万六六〇六円、買掛金九五七二万一〇九七円、長期借入金六億四四三五万一〇一三円)の債務を確認した。

2  右1の事実によると、昭和五九年六月ころの前田酒販の資産及び経営の状況は、芳しいものとはいえず、安定した状況にはなかったことが推認されるが、未だ、その程度が、原告において求償権を行使してもその目的が達せられないほどのものであったと推認することまではできない。

すなわち、前田酒販が、数度に亙って不渡手形を発生させたことからは、同社のその時点における資金状況の悪化が窺えるが、本件代物弁済がなされた昭和五九年六月の時点では、以前に銀行取引停止処分を受けてから約一年八か月が経過していること、また、その後、昭和五九年一一月に手形取引が可能になってから一年五か月は不渡手形の発生はなかったこと、前田酒販では、昭和五七年二月から、ディスカウント店に進出し、系列店を増加させて事業を拡大しているが、これに伴って多額の金銭の出入りがあり、資金状況の変動も大きくなったであろうと推認されること等に照らすと、昭和五九年六月において前田酒販の資金状況が逼迫した状態にあったかどうかすら明らかでないと言わざるを得ない。また、前記のとおり、昭和六二年五月三一日の時点で、前田酒販は多額の負債を有しているものであるが、これが本件代物弁済のときから約三年後における負債の状況の把握であるに留まることは措くにせよ、求償債務者の負債額のみを把握したとしても、資産額をも併せて把握しない限り、たとえ負債額が巨額であったとしても、求償債務者が債務超過の状態にあるかどうかするら判断することはできないから、前記の昭和六二年五月三一日における前田酒販の負債額に関する事実から、本件代物弁済のときの前田酒販の財務状態が原告において求償権行使不能な程度に達していたと推認することはできない。

3  原告は、昭和五七年五月期ないし昭和五九年五月期の前田酒販の財務内容は、いずれも九億円前後の債務超過にあった旨主張し、証人野村隆は、同人が確認した昭和六二年五月三一日の時点における前田酒販の負債金額に、各期に弁済したことが判明した金額を加えた金額をもって、前田酒販の各期の公表貸借対照表に修正仕訳を施し、簿外の負債内容を反映したものとなるような修正貸借対照表を作成して、昭和五七年五月期まで遡って各期における前田酒販の負債金額等の資産状況を推定していくと、昭和五七年四月期には九億円前後の未処理損失金が残っていたことが推測され、前田酒販の財務内容は、原告の右主張に合致することになる旨証言するが、右主張及び証言は、次の理由により採用することができない。すなわち、証人野村隆の証言によると、同人は、右の修正貸借対照表作成作業を行うについては、昭和六二年五月三一日の時点の前田酒販の負債額の確認を行っただけで、これらの負債の発生時期の確認を初めとする各期においての負債確認作業はしないまま数字合わせをしたものであること、また、簿外の負債を公表貸借対照表に反映させる作業は試みられたものの、簿外の資産を公表貸借対照表に反映させる作業は全く考慮外に置かれていることが認められ、野村隆の行った推定作業はそれ事態合理性を有する手法とはいえない。のみならず、野村隆作成の修正貸借対照表においては、昭和六二年五月三一日の時点における前田酒販の第一酒販株式会社に対する債務三億四九一七万八八七二円についても、昭和五七年五月期に遡って計上されているが、乙一号証の一、二によると、前田酒販が第一酒販株式会社と取引を開始したのは昭和五九年一二月であることが認められるから、野村隆作成の前記修正貸借対照表においては、少なくとも、第一酒販株式会社に対する債務の処理に関する限り不適切な処理がなされていることが明らかである。なお、原告は、前田酒販の財務諸表は、多額の損失を過少にすべく粉飾したものであり、簿外資産はないと考えられる旨主張するが、その主張する簿外負債の発生時期及び原因とこれに関する仕入、売上、売掛金等の相手方勘定科目等を明らかにしないまま、直ちに簿外資産がないと推認することは合理的とは言いがたいうえ、証人前田知男及び同野村隆の証言によると、昭和六一年ころの前田酒販の帳簿は不完全で帳簿の原資料も保管されておらず、代表者の前田知男自身、帳簿及び決算の状況は全く分からなかったというのであるから、負債は簿外のものが多数ありながら、資産に関してはすべてが財務諸表に計上されていたかどうかは極めて疑わしいと言わざるを得ず、結局、前田酒販に簿外の資産がなかったと認めることはできない。

4  また、証人前田知男及び原告本人は、本件代物弁済当時、前田酒販の財務状況は、原告が前田酒販に対し、求償権を行使することは到底不可能な状態にあった旨供述するが、求償可能かどうかは、当事者の主観的認識によるものではなく、客観的な資産、負債及び経営の状況等によって、判断すべきものであるから、これらの客観的事実の裏付を欠く証人前田知男及び原告本人の前記供述は採用の限りでない。

5  以上のとおり、本件代物弁済当時の前田酒販の資産の状況は、本件全証拠によっても明らかではなく、他方、前記1で認定した、前田酒販がディスカウント店に進出して活発に事業を拡大させていった状況、原告及び他の債権者に対する債務弁済の状況等をも勘案すると、結局、当時の前田酒販が原告において求償権を行使することが不能な状態にあったと認めることはできず、本件特例の適用を認めなかった本件処分は租税法規に適合したものといえる。

三  信義誠実の原則違反の主張について

課税処分が租税法規に適合したものである場合に、信義則の法理の適用により、これを違法なものとして取消すことができるのは、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するような特別の事情がある場合に限られるというべきである。本件において、原告が、昭和五七年に、前田酒販の債務の保証人として、不動産を処分して債務を履行し、同年分の確定申告の際に、本件特例の適用を申請したが、被告がこれに対し、更正処分をしなかったことは争いがなく、そのため、原告が本件係争年分の確定申告についても本件特例の適用が受けられると期待したことは推測に難くないが、右期待が法的保護に値するものとは言えず、右事実のみでは、前記特別の事情があるということは到底できず、他に、右特別の事情が存することは認められない。したがって、本件処分が信義誠実の原則に反し違法であるとの原告の主張は採用できない。

四  結論

よって、本件処分に違法な点はなく、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林登美子 裁判官 達修 裁判官 朝日貴浩)

別紙

本件課税処分の経緯

<省略>

別表

<省略>

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